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福岡高等裁判所 昭和33年(ツ)1号 判決

上告人 控訴人・被告 本田徳治 外一名

訴訟代理人 村田左文

被上告人 被控訴人・原告 尾崎高雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

本件上告理由は別紙上告理由書に記載するとおりである。

物権の変動はその登記をしたときから第三者に対し対抗力を生ずるのであるから、仮登記に基き本登記がなされた場合にも、その本登記による対抗力は本登記のときから生ずるのであつて、仮登記のとき又は当事者間に物権変動の効力を生じたときに遡つて対抗力を生ずるものではない。しかし仮登記は後日本登記がなされることによつて、本登記権利者の権利を、仮登記後本登記前になされた中間処分による第三者の権利に優先せしめ、本登記権利者の権利を害する限度において第三者の権利を排除し、もつて本登記権利者の権利がその本登記のときから完全な対抗力を生ずることを保全せんとするものであつて、不動産登記法第七条第二項はその趣旨を規定したものである。すなわちこの規定は、物権変動の対抗力が仮登記当時に遡つて生ずるという意味ではなく、ただ物権の優先的効力について仮登記のときに本登記をしたと同様の効力を与えんとする趣旨である。そしてこのことは、その仮登記が、物権の変動を保全する仮登記であるか、物権変動の請求権を保全する仮登記であるかによつて、その理を異にするものではない。それ故例えば、或る不動産の所有権が甲から乙に移転しその移転を保全する仮登記がなされた後その本登記がなされ、又は甲から乙にその所有権を移転すべき請求権を保全する仮登記がなされた後所有権が乙に移転してその本登記がなされ、他面右仮登記後本登記前に甲が第三者丙に対し同一不動産の所有権を譲渡し又はその不動産に賃借権を設定してそれらの登記がなされた場合には、乙の所有権は丙の所有権又は賃借権に優先するから丙のこれらの権利は否認されることになるが、本登記による対抗力は本登記のときから生ずるので、乙は丙との関係ではその本登記のときに所有権を取得したことになり、従つてそれ以前において丙が当該不動産を使用収益したことについて、乙は自己の所有権を理由として損害賠償又は不当利得償還の請求をすることはできない。原判決の所論判示はその表現において叙上の説明と異るが、その趣旨は結局同一に帰するものであつて、所論は原判決を正解せず独自の見解に基き原判決を非難するものであり、所論援用の判例は物権変動の請求権保全の仮登記の効力に関し毫も所論の論拠となるものではない。従つて論旨は理由がない。

よつて民事訴訟法第四〇一条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長判事 竹下利之右衛門 判事 小西信三 判事 岩永金次郎)

上告理由

原判決は法令の解釈を誤つている。原判決は「停止条件附所有権移転請求権保全の仮登記は後日第三者が当該不動産につき物権を取得することがあつても悉く之を排除して右請求権自体の実現を可能ならしめる素地を予めなしておくものであるから……仮登記そのものの効果として云々」と認定したのであるが若しそうだとすると単に所有権移転請求権の保全の為に過ぎぬ仮登記であつても一度為された以上その仮登記そのものの効果として後日本登記が為さるれば彼の当事者間に於ては已に実際上所有権の移転が為され唯登記申請に必要な手続上の条件が具備しない為仮登記を為した場合即ち不動産登記法第二条一の場合と其の効果につき凡そ径庭が無いこととなるのであるが果して然るか。

元来請求権保全の仮登記権利者は条件の成就によつて始めて不動産の所有権を取得するのであつて後日本登記が為されたからといつて右条件成就以前たる仮登記の日に遡つて所有権取得の効果を生ずるものでないことは論を俟たぬところであり又その保全さるる請求権は言う迄も無く相対的効力を有するに過ぎないものであるから後日本登記が為されたからといつてそれは仮登記の順位に於て効力を有するに止まり物権変動の効果はその変動の発生した時迄遡及するに過ぎないのである。然るに原判決認定の様に仮登記後当該不動産につき取得された第三者の物権を悉く排除するものとすればその物権変動の効果が仮登記を為した日迄遡及するのと全く同一であつて斯る認定は凡そ法の解釈を誤つたものであると信ずる。惟ふに仮登記後本登記迄の間に当該不動産につき取得さるる悉くの物権を排除するが如き偉大な権限は単に叙上説示の如く相対的効力を有するに過ぎない請求権に生ずるものでは決してないものと謂ふべきであり此の点は大正三年十二月十日の大審院の判決(大審民録二〇輯一〇六頁)からも当然肯認され得るところである。

以上に依り停止条件附所有権移転請求権保全の仮登記につき後日第三者が当該不動産につき取得された物権を悉く排除する効果を有するとの認定を前提とした原判決は法の解釈を誤つたものであるので茲に上告に及んだ次第である。

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